訪問美容師インタビュー Vol.3│「福祉」と「美容」を繋ぐために尽力したい│萩平 浩一(ハギヒラ コウイチ)さん
所属スタイリストはすべて「サロンオーナー」という、異色の訪問美容カットサービス「GOCHOKI(ゴーチョキ)」。
今回は大阪府堺市で「美容室KOUS」を経営しながら、GOCHOKIの訪問美容師としても活動される萩平 浩一(ハギヒラ コウイチ)さんにお話をうかがいました。
▼スタイリスト略歴:萩平 浩一(ハギヒラ コウイチ)
サロンで培った経験を活かし、30歳の頃に独立。大阪府堺市にて「美容室KOUS(コーズ)」をオープンし、地域密着型の美容室として長く地元民に親しまれている。大阪美容生活衛生同業組合の理事や堺西支部長を務めた経験もあり、訪問美容が世間に広く認知される以前から、17年にわたり病院や施設等での施術を行ってきた。現在はボランティアの一環として、児童養護施設でのカットも手掛けている。
▼こんな方に読んでほしい
・訪問美容師になるきっかけがほしい
・病院や施設での現場の様子を、生の声で知りたい
・サロンオーナーと訪問美容の両立を検討している
・訪問美容に不安はあるが、いつか挑戦したい
Contents
周囲の応援や支えがあって、30歳のタイミングで店舗オーナーに
————まずは簡単な自己紹介をお願いします。
大阪府堺市でサロン「美容室KOUS(コーズ)」をしております、萩平といいます。
平成8年の12月に今の店を開業し、それから24年間「お客様にとって身近な存在」として地域密着型のサロンを経営してきました。
最近は趣味で「児童養護施設」へのカットボランティアなども行っています。よろしくお願いいたします。
–———–よろしくお願いします。はじめに、萩平さんが「美容師を目指したきっかけ・理由」は何だったんでしょうか?
高校時代、将来の進路を考えた時に「大学へ行くより、手に職をつけて早く社会で働きたい」という思いのほうが強かったんです。
「それなら将来の仕事に直結する分野を学びたい」と思い、当時の担任に専門学校で何を専攻するかを相談したところ「自動車整備」「英語」「コンピューター関係」などの候補があがりました。
中でも僕は音楽が好きで、当時よく聴いていたイギリスのアーティストがお洒落なヘアスタイルをしていたんですね。そこから「美容師が一番興味が持てそうだ」と思い、美容師の専門学校へ進むことにしました。
————そういった経緯だったとは驚きです。そしていくつかの店舗でスタイリストの経験を積んだ後、30歳の頃にご自身の店舗「美容室KOUS(コーズ)」を開業されました。その年齢で独立しようと思われた、きっかけや理由は何だったんでしょうか?
僕が独立する前に所属していたサロンが、3店舗ほどを経営するようなチェーンのお店だったんです。5年ほど勤めたタイミングで、一度上司から「店舗を買い取って独立しないか?」というお話をいただいたのが、最初のきっかけでした。
結局いろいろな事情でその時は独立しなかったんですが、その頃から「出資してくれる」というお話や、「独立の援助をしてくれる」という声をチラホラいただくようになりました。
最終的に知り合いのオーナーさんから「スーパーの隣の物件が空き家になるから、そこに店舗を出したら?」というお話をもらい、「スーパーの近くなら人通りも多くて良さそうだな」と、その土地に店を出す覚悟を決めました。
僕の場合は「自分から積極的に独立を目指した」というより、周囲が声をかけてくれたり支援してくれたおかげで、いつの間にか自分の店舗を持てていたという感じです。本当に環境や人に恵まれていたな、と思いますね。
偶然目にしたテレビ放送から、「訪問美容師」という働き方に興味を抱くように
————そして現在は、ご自身のサロンを経営しつつ訪問美容師としての活動もされていらっしゃいます。萩平さんは「訪問美容師」という職業を、何がきっかけで知られたんですか?
僕が「訪問美容師」という職を知ったのは、今から17、18年ほど前のことです。当時、横浜の放送で「LLP訪問理美容協会」という組織の活動がテレビで特集されていたんですが、その時に特集されていた理事長の「藤田 巌さん」という方のエピソードがとてもおもしろかったんですね。
藤田さんは56歳のときに一念発起して、大手電機メーカーの営業職から美容師に転身したという異色の経歴の方なんですが、そのきっかけになったのが「高齢のお母様を元気にしたい」という思いだったそうです。
髪をカットすることでお母様に喜んでほしくて、6年間かけて美容師の資格を取得し、現在も「訪問美容師」として自ら病院や施設にアポを取って施術を続けていらっしゃる。
その姿を見て、きっと遠くない将来に自分も同じ問題に直面するだろうなと感じ、自分も「訪問美容」「福祉美容」について学ぶ必要性を感じるようになりました。
————世間で「訪問美容」という言葉が知られ始めたのは、まだここ2~3年という印象があります。そのずっと以前から、萩平さんは訪問美容という働き方に興味を持たれていたということに驚きました。そんなきっかけを踏まえて、萩平さんが本格的に「訪問美容を始めよう」と思われた理由や転機は何だったんでしょうか?
藤田さんのエピソードを見てから1年もたたないくらいのタイミングで、堺市の病院から「入院患者さんの髪を切ってほしい」という依頼を、美容組合へいただいたのが最初のきっかけでした。
そこから病院への訪問美容がはじまり、約10年ほど続きました。現在はその病院ではないですが、当時から一緒に訪問していた方達と、別の病院にて訪問美容を継続しています。
————当時あまり前例もない中で、訪問美容をはじめることに迷いや不安はなかったんでしょうか?
そうですね。当時は「サロンワークが第一優先」だったので、訪問美容はどちらかと言うと「将来を見据えての勉強」というイメージで取り組んでいました。
だからこそ何があっても「経験値になる」という意識だったので、訪問美容の活動に迷いや不安を感じることは、それ程ありませんでした。
「訪問美容」のやりがいは、お客様の心から嬉しそうな表情が見られること
————今でこそ「訪問美容の手順やノウハウ」を、ある程度事前に学ぶことができますが。当時の萩平さんはどうやって事前準備をされたんでしょうか?
当時は全く情報がなかったので、手探りでやってみては反省し、また行ってみての繰り返しでした。本当に「実践で学ぶ」という言葉がぴったりかと思います。
その頃は当番制でペアで組んで回っていたので、その方の接客スタイルやカット技術のアイデアを観察しては盗んでいました。普段全く関わらないタイプの人とペアを組むと、自分の知らない接客やスキルが見られるのでとても勉強になったのを覚えています。
————実際に訪問美容をスタートしてからは、どうでしたか?
始めてみて最初に感じたのが、想像以上に「難しい」ということでした。実はスタートする以前、訪問美容に対してそこまで難しいというイメージが僕にはなかったんです。
それが実践してみると「サロンワークと全く違う」と感じる場面も多々有り、正直「この仕事を継続していくのは難しいことだな」と感じました。
例えば「接客」1つとっても、病院や施設には女性でも唾をはかれたり、手をつねってこられたりと乱暴な方もいらっしゃいます。仮に暴れられてもご高齢のお客様に対して、こちらは力で抑えることができません。
あまりに大変なので、実際過去には「訪問美容をやめようかな」と思ったこともあります。
————そうだったんですね。そんな中、萩平さんが約17年も「訪問美容」という仕事を続けていらっしゃるのは、どういった理由があるのでしょうか?
サービス業に長く携わってると、お客様の施術後の反応を直接見られる場面も多いです。
どれだけ苦労が多くても施術後にお客様が喜んでくださる瞬間を見ると、やはり嬉しいなとか、救われたなという気持ち、やりがいを感じることができます。
これまで何度も辞められるタイミングはありましたが、そういった嬉しい瞬間があるからこそ続けてこれたなと感じています。
————ありがとうございます。萩平さんにとって「訪問美容」を通じて感じられる「良かったこと」「やりがい」は、どんなものがありますか?
やはり施術中や施術後の、お客様との何気ないコミュニケーションの瞬間が嬉しいです。昔話を聞かせてくれる方や、施術後にすごく喜んでくださる方など色々な方がいらっしゃいます。
また特に女性のお客様を見ていると、いくつになっても「誰かに褒められること」はすごく大事なことなのだと実感します。カットしたあとに看護師さんやヘルパーさんから「似合ってるよ」「良くなったね」と言われると、お客様がとてもニコニコして元気な表情になられるんですよね。
それをダイレクトに見ることができるのは、とても嬉しいしやりがいだなと思います。
————ありがとうございます。逆に「訪問美容」で「辛いこと」「苦労すること」はありますか?
病院や施設に訪問すると、1日に何人もの方を接客することになります。そのとき偶然「対応の難しいお客様」や「自分とはあまり相性の良くないお客様」を連続で施術することが稀にあるのですが、そういったときは大変だなと感じます。
何度切ってもやり直しを要求されるお客様や、クレームではないけれど語気の強いお客様など、自分と波長の合わない方が続いた時は「今日はそういう日なんだな」と自分の中で気持ちを整理するようにしています。
————なるほど。そういったときのモチベーションの管理は、どうされているんですか?
このときは一緒に訪問している仲間が励ましたり声をかけてくれることで、気持ちを持ち直すことができます。
1人だと辛いと思いますが、メンバーとフォローしながら行うことで気持ちも楽になりますし、モチベーションを保ったまま1日の施術を終えることができるので有り難いなと思います。
————「訪問美容」では、チームワークも非常に大切なんですね。
「福祉」と「美容」が共存するため、自分も出来ることを全うしたい
————訪問美容をはじめてから、思い出に残っているエピソードがあれば教えてください。
個人としてはやはり、訪問先の方が施術を通して笑顔になってくれる瞬間が、一番嬉しいですし記憶にも残っています。
もう1つ、僕の経験ではないのですが、訪問美容をはじめるきっかけになった「藤田厳さん」の話ですごく好きなエピソードがあります。
藤田さんが過去に接客された女性のお話なんですが、その方は家に何年も引きこもりがちで、外に出ることもすっかり諦めていらっしゃいました。しかし藤田さんが髪を綺麗にカットして整えてくれたのをきっかけに、手鏡を嬉しそうに眺めては「お出かけしたい」と娘さんに話すようになったそうなんです。
この話を聞いたとき、改めて「訪問美容」は人生への希望や興味を失ってしまった方の心を、髪を綺麗に整えることで元気にする、意識を外に向ける力があると思いました。
————訪問美容だからこそ実現できる、すごく素敵なエピソードですね。それでは「美容師」としての、萩平さんのこれからの展望や目標を教えてください。
ありがとうございます。
まず「美容師」としては、自分の店を持つことができて、さらに24年間続けてくることができたので、最後までこの仕事を全うしていきたいと思っています。
一方で訪問、福祉にかかわる美容師の仕事、いわば「福祉美容師」というジャンルは、今後さらに確立してほしいですし、自分自身これからも携わっていきたいと考えています。
「訪問美容」は少しずつやる方が増えているものの、まだまだ成功事例が少ない印象があります。誰もが着手して上手くいくわけではない、厳しい業界であることも事実です。
しかし高齢者の方に限らず、若くても障害のある方や、児童養護施設の例であげたような子供さんなど、訪問美容を必要としている方はまだまだ沢山いらっしゃいます。美容が関われるチャンスは多いのに、美容師さんがそこにうまく切りこめていけていないという現実がある。
だからこそ、そういった「福祉」と「美容」との接点を増やしていくために、自分にできることを全うしたいなと思います。
————ありがとうございます。最後に「訪問美容師を目指すスタイリストさん」に向けて、1言メッセージをお願いします。
「訪問美容」に関する僕の経験はわずかなものですが、実際に関わってみると本当にやりがいを感じる瞬間が多い仕事です。
訪問美容師として活動することを悩まれている方もいると思いますが、一度お客様に信頼してもらえれば、自分がやってきたことが認められたんだという「自信」を持つことができます。
僕がいま関わっている美容師さん達を見て感じるのは、1人1人本当にたくさんの魅力的な個性があって、接客のプロとして素敵な要素を持っているということです。
皆さんは「訪問美容師」として活躍する可能性を秘めているので、ぜひ諦めず挑戦してほしいと思います。
————ありがとうございました。これからも福祉と美容の架け橋として、活躍されることを期待しております!
▼今回はGOCHOKIスタイリストとして訪問美容師の活動をしつつ、大阪府堺市でサロン「美容室KOUS(コーズ)」のオーナーを務める「萩平 浩一(ハギヒラ コウイチ)さん」にお話をうかがいました。
これから「訪問美容師」としての活動を考えたいスタイリストさんは、ぜひ参考にしていただければ嬉しいです。
美容室KOUS(コーズ)
●住所:大阪府堺市西区草部335-5
●アクセス:富木駅から徒歩19分(1.5km)/ 鳳駅から1.6km
●営業時間:9時~19時(多少変動できるため応相談)/ 予約優先制
●定休日:月曜日
●TEL:072-275-0146