寝たきりの方に洗髪・ヘアカットをする方法と便利な道具│プロの訪問美容師が解説
これから訪問美容を始めるにあたり、ふだんサロンで経験する機会のない「寝たきりのお客様への洗髪・ヘアカットが不安」というスタイリストさんは多いのではないでしょうか?
今回はそんなスタイリストさんに向けて「寝たきりの方への洗髪・ヘアカット」をテーマに具体的な方法や必要な道具について解説いたします。記事の執筆に当たり「sinka hair(シンカヘアー)」でサロンオーナー兼、訪問美容師を務める、澤田さまご夫婦に取材のご協力をいただきました。
「寝たきりのご家族の洗髪・ヘアカットに悩んでいる」という一般の利用者さまも、参考になる点がきっとありますので、是非ご一読ください。
【この記事でわかること】
・寝たきりの方の洗髪・ヘアカットの手順
・寝たきりの方の洗髪・ヘアカットに必要な道具
・寝たきりの方の洗髪やヘアカットが簡単になる、便利グッズ
・寝たきりの方の施術で知っておきたい、事前準備やコツ
Contents
寝たきりの方のヘアカット手順と必要な道具
まずは寝たきりのお客様の髪の毛をカットする手順と、必要な道具について見ていきましょう。
【必要な道具】
・養生シート
・カットクロス
・ビニール袋
・ガムテープ
・カットシザー
・ヘッドが回転する電動バリカン
・コーム
【ヘアカットの手順】
※病院や重症度の高い施設のお客様の場合、事前に看護師さんやヘルパーさんと以下の内容を打ち合わせしてから施術に入ります。
・お客様が使用している医療器材や点滴などを動かして問題ないか?
・お客様の可能な体勢・無理な体勢
・看護師さんやヘルパーさんに依頼したい介助について
それでは以下で手順を見ていきましょう。
1.カットした髪の毛が服にかからないよう、首の箇所に穴をあけた養生シートで、お客様の上半身を覆います。髪の毛がシートの隙間から入らない様、さらに上からカットクロスを首元に巻きます。
ベッドの頭側の部分が壁に接しているときは、可能であればベッドを動かして、ベッドと壁の距離を離して作業スペースを確保しましょう。
2.シザーとバリカンを使ってカットしていきます。トップやサイドはシザーを使って、襟足など施術の難しい箇所は、ヘッドが回転する電動バリカン(以下で紹介)などを用いてカットします。お客様が寝返りが打てたり、首を横に傾けられる場合は、カットしやすいよう適宜お声がけしながら、体制を変えてもらいます。
3.カットできたら、髪の毛を落とさない様に養生シートを回収し、後処理をしましょう。
寝たきりの方の洗髪・シャンプー手順と必要な道具
つぎに寝たきりのお客様を洗髪・シャンプーする手順と、必要な道具についてご紹介します。
洗髪とシャンプーには
・移動式シャンプー台を使用する
・ドライシャンプ―を利用する
・蒸しタオルでふく
などの方法もありますが、今回は場所を選ばず高額な道具を揃える必要もない、寝たきりの方の髪を洗う方法をご紹介します。
【必要な道具】
・養生シート
・ビニール袋
・バスタオル
・ペット用シーツ
・人肌温度のお湯
・ペットボトル
・シャンプー剤
【洗髪の手順】
1.カット時と同様、首の箇所に穴をあけた養生シートでお客様の上半身を覆います。ベッドの頭側の部分が壁に接しているときは、ベッドを動かして壁との間に作業スペースを確保します。
2.お客様の後頭部を浮かせるため、バスタオルを丸めてU字にしたものにビニール袋を被せたものを、お客様の頭の下に敷きます。以下の図のような具合です。
首が痛い場合は、首元のタオルの厚みを出すなどして調整をおこないます。
3.髪を洗い終えた水がバケツに回収されるよう、U字枕の下に筒状のビニール袋とバケツをセットします。また水が散っても大丈夫なよう、枕元にペット用のシーツを敷いておきます。
4.セットが完了したら、ペットボトルの先端にじょうろの口をつけたもので、髪の毛をまんべんなく洗い流します。お湯は40℃前後で、お好みの温度のものを用意すると良いでしょう。
5.洗い流せたら髪の毛をタオルで拭き、ドライヤーで乾かして完了です。
寝たきりの方の洗髪やカットに便利な “おすすめアイテム3選”
美容師さんはもちろんご自宅でも使用できる、寝たきりの方のヘアカット・洗髪がグッと楽になる、おすすめのアイテム3選をご紹介いたします。
1.ヘッドの回転する、充電式の電動バリカン
商品情報:当社参考品
寝たきりの方のヘアカットにぴったりな、ヘッド部分が360°回転するバリカンです。寝たきりの方のカットで最も難しい「襟足や後頭部」の処理も、ヘッド部分の小回りが効くためお客様の体勢にそって無理なくカットすることができます。
充電式のため、場所を選ばず使用できるのもポイントです。
2.コードレスのドライヤー
商品情報:当社参考品
コードレスで使用できる、充電式のドライヤーです。可動域の限られる寝たきりの方の髪を乾かす際は、軽量で小回りがきくコードレスタイプのドライヤーが重宝されます。
本体も持ち運びやすいミニマムサイズなので、移動の多い訪問美容全般におすすめのアイテムです。
3.洗い流さない、ドライシャンプー
商品情報:N. シア ドライシャンプー
お水を持ち込むのが難しい状況や、施術時間が限られた場合に重宝するのが、お水のいらない「洗い流さないタイプのシャンプー」です。適量を髪につけマッサージしたのち、タオルで拭き取るだけで簡単に頭部の汚れや皮脂を取り除けます。乾いたタオルはもちろん、蒸しタオルで仕上げても喜んでもらえます。
ドライシャンプーのおすすめ商品や使い方については、以下の記事にも詳しくまとめています。
「訪問美容に便利なドライシャンプーとは?使用手順からおすすめ商品まで解説!」
寝たきりの方に無理なく施術を受けてもらうコツ
この記事を読んでいただいている方の中には「寝たきりの方の施術に不安がある」「体に無理な負担をかけてしまうのが怖い」といった方も多いのではないでしょうか?
寝たきりの方の洗髪やヘアカットを無理なくおこなうために、知っておきたい準備やコツについてご紹介します。
1.施術前に「お客様のOKな体勢」をしっかりと確認
施術前にご本人やご家族、看護師さんに「どのくらい動けるか?どんな体制が取れるか?」を確認すると、施術がスムーズにおこないやすくなります。
「寝たきりの方=全く動けない」という想像をしがちですが、実は意外と体勢を自由に変えられたり、中には短時間ならベッドに腰かけられたりといったお客様もいます。
寝返りが打てる、あるいは首を下に動かしていただけるだけで、後頭部や襟足の処理が随分しやすくなります。自身の負担を軽減するためにも、ぜひ最初のヒアリングを意識して臨んでみてください。
2.身内に「寝たきりの人のふり」をしてもらって、練習に励む
「寝たきりの方の施術が初めてで怖い」という方は、まずは身内や知り合いの方に協力してもらい、経験の数を増やしましょう。実際には寝たきりの生活をされていない方に、あえてベッドから体を起こせない・寝返りが打てないふりをしてもらって、実践的にカットや洗髪を練習してみてください。
実際に現場に出ると「練習と違った難しさ」もありますが、事前に施術手順や道具の準備を反復しておくだけで、自信をもって本番に臨みやすくなります。
3.お客様がどこまで求めているかを把握(プロに任せるのもOK)
「寝たきりの方の施術=洗髪からヘアカットまで全て美容師がすべき」という認識自体が、実はそうでもない……といった場合も少なくありません。
例えば病院や施設の場合、カット後の洗髪は看護師さんやヘルパーさんへお任せするケースも多く、お客さんもそちらの方が慣れているためリラックスできることもあります。また大掛かりな移動式シャンプー台を持ち込んでシャンプーしなくても、ドライシャンプーと蒸しタオルで十分気持ちいいと喜んでくれるお客様もいらっしゃいます。
お客様自身やその周りの方が「どこまでを美容師にやってほしいのか?」を把握できると、自分自身もより楽な気持ちで、施術に臨めるようになります。
寝たきりのお客様への訪問美容エピソード
さいごに「寝たきりの方の施術が不安だな」と思っている訪問美容師さんに読んでいただきたい、寝たきりの方を実際に施術された際の訪問エピソードをご紹介します。取材にご協力いただいた澤田様ご夫婦に、記憶に残っている事例についてお聞きしました。
── これまで数多くの寝たきりの方を施術されたと思うんですが、思い出に残っているお客様などいらっしゃいますか?
そうですね、病院や施設でいろんなお客様と接してきて、本当に個性的で素敵な方がたくさんいらっしゃいます(笑) その中でも記憶に残ってるのが、毎月訪問させていただいてた施設にいたおばあちゃん。すごく可愛らしいおばあちゃんで、小さな声で独り言をいいながら、いつも手を握って挨拶してくれる方で。毎回ヘアカットするのを、わたしはもちろん向こうも楽しみにしてくださってました。
それがあるとき、数ヶ月連続でいつも待ってくれてるおばあちゃんの姿を見かけなくなりました。「どうしたんだろう?」と思って施設の方にお聞きしたら、実は体調が急変して、寝たきりの状態になられてたんですね。それでもカットさせてほしいなと思って、おばあちゃんの髪を寝たままの状態で切らせていただきました。言葉も話せない状態だったのでお話はできなかったですけど、それでもおばあちゃんの姿が久しぶりに見られて嬉しかったです。
その次に施設にいったときには、すでにおばあちゃんは亡くなられてて。すごく寂しい気持ちになりましたが、最後にカットさせてもらえて良かったなと思いました。訪問美容の世界にいると、つい先日まで元気に会話していた利用者さんが、次の訪問時には寝たきりになっていたり、亡くなられていたりということも珍しくないため、お会いできる時間は大切にしたいです。
たとえ寝たきりになってしまっても、”美容師としてのサービスを提供できること” が嬉しいなと思います。
── 寝たきりの方を施術することで、お客様の最後の瞬間まで美容師として関わることができるんですね。
まとめ
今回は「寝たきりの方の洗髪・ヘアカット」をテーマに、その手順や必要な道具・施術前に知っておきたい心構え・便利グッズなどをご紹介いたしました。いかがでしたか?
施術に不安を抱えている方は、まずは練習と小さな実践を繰り返しながら、少しずつ技術やノウハウを身に着けて自信をつけていきましょう。本記事があなたの訪問美容サービスにとって、少しでも参考になれば幸いです。
また「寝たきりのご家族や知人のヘアカットに悩んでいる」という一般の方は、ぜひ身近な訪問美容サービスに相談されてみてはいかがでしょうか。
関西を中心に訪問美容サービスを展開する「GOCHOKI」では、このほかにも美容師さん・利用者さんに向けて、数々のためになる情報を発信しています。ぜひ訪問美容のコラム記事も読んでみてくださいね。
今回取材にご協力いただいた美容師様
澤田 岳 様 / 澤田 寛子 様
和歌山市にて、髪にやさしいオーガニックの薬剤にこだわった隠れ家サロン「Sinka hair」をご夫婦で運営。ヘアメニューのほかネイルやフェイシャルエステも提供する。サロン経営と合わせて訪問美容サービスの提供にも尽力されている。
sinka hair(シンカヘアー)のWebサイトはこちら▶https://sinka-hair.com/