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訪問美容師インタビュー Vol.2│訪問美容とは「生涯の美容師」としてお客様に携わる仕事│重本 恵美子(シゲモト エミコ)さん

2020.11.13

所属スタイリストはすべて「サロンオーナー」という、異色の訪問美容カットサービス「GOCHOKI(ゴーチョキ)」。

今回は大阪府堺市でサロン「Blanche」を経営しながら、GOCHOKIの訪問美容師としても活動される重本 恵美子(シゲモト エミコ)さんにお話をうかがいました。

 

▼スタイリスト略歴:重本 恵美子(シゲモト エミコ)

重本さまお写真

徳島県出身、大阪の某有名店に15年所属したのち、大阪府堺市にてサロン「Blanche(ブランシェ)」をオープン。スタイリスト歴は22年、若者からご年配者まで幅広い層から支持を集める。訪問美容では顧客のみならず、そのご家族にも笑顔になっていただける技術と接客に尽力している。


▼こんな方に読んでほしい

・訪問美容に関心があるが、行動に移せていない人
・訪問美容の現場を生の声で知りたい人
・サロンオーナーと訪問美容の両立を検討している人
・訪問美容に不安はあるが、いつか挑戦したいという人

 

私の髪をツルツルにしてくれた美容師。自分も誰かに「美しくなる感動」を与えたい

blancheの店内写真1

 

————まずは簡単な自己紹介をお願いします。

大阪府堺市でサロンBlancheを経営してます、重本といいます。

以前勤めていた店舗に15年間所属したのち、7年前に独立して今のサロンを始めました。現在は5名のスタッフが所属しています。

今年でスタイリスト歴は22年目となります。本日はよろしくお願いいたします。

 

————よろしくお願いします。はじめに、重本さんが「美容師を目指したきっかけ・理由」は何だったんでしょうか?

きっかけは小学生の時、サロンで自分の髪をすごくきれいに整えてもらったことでした。本当にツルツルにしてもらったことがとても嬉しくて、感動してしまって。けれど自宅で同じようにキレイな髪を維持しようとしても、自分ではうまくいきませんでした。

小学生だったこともあり、髪をどうすればキレイに保てるのかもわからない、誰かが教えてくれるわけでもない、そんな状態にモヤモヤを感じていました。同時にこの「ツルツルになった感動」を、私も誰かに伝えたいという思いをこの頃から抱き始めました。

私は小さい頃から、将来は「パティシエ」「トリマー」「美容師」3つのどれかになる、って決めていたんですね。でも当時”パティシエ”という職はまだあまり認知されておらず「ケーキ屋さん」という漠然とした認識でしたし、あと犬が好きすぎる故にトリマーという選択肢も厳しいなと(笑)

最終的に「消去法」で、”美容師”という道を選ぶことになりました。特に中学生くらいからお洒落やファッションに強く関心があり、その頃にはもう「将来は美容師になる」と意思は固まっていました。

本当は高校生から美容師の専門学校へ進学したかったのですが「高校はいくべき」という親の意見もあり、将来独立することを見越して「商業科」に入りました。

高校を出たらすぐに、徳島の地元を離れて大阪の美容学校へ進学しました。そこで資格をとった後は、大阪でもとにかく「厳しいことで有名」な、きっちりとしたカリキュラムの組まれた店舗に就職しました。技術力に定評のあるサロンだったので、自分が力をつけるためにあえてそこを選びました。

 

————「成長のため」に自ら、厳しい環境に飛び込まれたんですね。そして15年間そのサロンに勤続された後、ご自身の店舗「Blanche」開業されました。独立しようと思われた、きっかけや理由は何だったんでしょうか?

初めて行った美容室が個人でやられているお店だったこともあり、漠然と「小規模経営のサロン」への憧れはあったように思います。

もう1つの理由は、大型店舗ならではの「やりたいことの実現に時間がかかる」点にもどかしさを感じてしまったことです。例えば「 新しいパーマ材やカラー材を入れたい」と思っても、全員にそのノウハウを浸透させてからでないと実行できない。「お客様に何かサービスをしたい」と思っても、他の従業員がいる中で私だけが勝手な行動はできない。

何をやるにも「全員の許可をとって」「全員のレベルを考慮して」でないと新しいものが取り入れられなかったので、 とても効率が悪かったんです。

「自分がお客様にしたいと感じたことを、すぐ形にする」ことがしたくて、最終的には自分の店を持とうと思いました。

 

「訪問美容師」という仕事に携わることに、さほど迷いはなかった

————そして現在は、ご自身のサロンを経営しつつ訪問美容師としての活動もされていらっしゃいます。重本さんは「訪問美容師」という職業を、何がきっかけで知られたんですか?

 

「訪問美容師」という職を認知したのはここ数年ですが、似たようなことは学生時代の頃に経験していました。専門学生のときに「ボランティアカット」として介護施設に行く研修があるんですが、その時にかなり辛い思いをしたんですね。認知症の方もいらっしゃったのでコミュニケーションをとるのも難しく、カットするのも本当に大変でした。

ただ数年前に自身の母親が入院した際、病院で母のシャンプーをしていた際にふと「病院や施設で寝たきりの人に、シャンプーをする仕事があるといいのに」と感じました。母以外の患者さんは看護師さんが頭を洗うんですが、看護師さんはシャンプーのプロではないので、人によっては頭や身体が痛くて辛いという患者さんもいらっしゃると思うんです。

その後、常連のお客様が病気でサロンに来れなくなってしまって、自然とご自宅にカットやシャンプーをしに行くようになりました。だから私にとっては明確に「訪問美容」という仕事を知って実行する以前から、自然と似たようなことを意識したり実践したりしていたように思います。

 

————なるほど。その中で本格的に「訪問美容を始めよう」と思われたきっかけや理由は何だったんでしょうか?

シャンプーを自宅でするにしても、寝たきりの方を施術するにしても、結局知識がないとできないことが多いというもどかしさを私自身が感じていたからだと思います。

ちょうどそのタイミングでGOCHOKIさんからお声をいただいた縁もあり、感覚でこなしていた「訪問美容のような介護を要する施術」について、改めて一から学ぼうと思いました。

 

「訪問美容」は難しさも辛いことも沢山ある。だからこそ「やりがい」も大きい

blancheの店内写真3

 

————実際に訪問美容師としての勉強や現場経験をされて、どのように感じましたか?

「カットする」というシンプルな施術に、思った以上のレベルが必要な世界であることを痛感しました。現場に出る前も勉強や練習はしているんですが、とにかく求められるスピード感や現場特有の配慮は実践でしか学ぶことができません。


例えば「寝たきりのお客様」の場合、頭を持ち上げて、バリカンを当ててという時間はお客様にとって苦痛な時間です。素早い施術が求められると同時に、頭皮にカサブタのある方も多いので、誤ってバリカンを当てないよう注意を払わなければならない。


特に最初の頃は「準備している知識や経験だけでは、まったく足らない」と感じる場面が多かったです。

 

————長年スタイリストとして活躍されている重本さんでも、訪問美容ではまた全く異なる難しさに直面されたんですね。具体的に訪問して、苦労したことにはどういったことがありましたか?

1つは先程もあげた「スピード感」の意識です。サロン美容師の中には「1人のお客様に時間をかけてじっくり向き合いたい」という人も多いですが、その常識が訪問美容では通用しません。

例えば訪問宅のお客様であれば、他人を家にあげるので普段よりおめかしして笑顔で迎えてくださるんですね。ご本人も気づかないうちに緊張されているので、私の帰宅後にどっと気疲れされる方もいらっしゃるはずです。

また病院や施設ではご本人がカットを望んでいないケースもあるので、お客様から直接「早く終わらせて」と声をかけられる場面も多いです。中には「酸素吸入」されてる方で、酸素マスクをお口から外して施術するということもあります。

お客様は座っていることも苦痛、人をご自宅に上げることも苦痛、基本的に施術中は「しんどい思いをされている」という前提で臨みます。訪問美容の世界では、むしろ「時間をかけてお客様にメリットなことはない」と思っています。

 

2つ目は、体力や精神的につらい場面もあるということですね。

寝たきりの方だと施術中はずっとお客様の頭を抱えながらなので、1日に何人も施術すると腰が痛くなります。私は本来、腰が強い方なのですが(笑)

また介護施設認定を受けている病院などでは「ほぼ意識のない方」や「胃ろうをされてる方」もカットするので、時には目を背けたくなったり、ネガティブな気持ちになる場面もあります。

だからこそ施術中は、お客様に少しでも気持ちをあげてもらったり、自分自身のモチベーションをあげるために、積極的に「キレイになりましたね」「サッパリしましたよ」という声かけや笑顔を徹底していますね。

 

————ありがとうございます。逆に訪問美容を通じて「良かったこと」はありますか?

サロンとはまた違う「訪問美容ならではのやりがい」を、感じられる場面が非常に多いことです。

普段はご家族の方が忙しくて手が離せない、ご本人の相手をする時間がとれない。しかし私が訪問することで、ご本人とご家族を交えて3人でお話しする機会が生まれます。ご自宅にこもりがちなお客さまにとって、それが自然とストレスの発散になったり、気分転換になったりするんですね。そういうお客様やご家族との間には、信頼も生まれやすいです。

あとは訪問したお客様のカットを終えたあとに、少し眉を整えたり、前髪の仕上げをカールするとすごく喜んでくださいます。特に女性のお客様はとても嬉しそうな表情をしてくださいます。

そういった「髪の毛をカットするだけじゃないやりがい」を、施術を通して感じられる魅力が訪問美容にはあると思います。

 

訪問美容は、「お客様の一生」に最後まで携われるお仕事

————訪問先のお客様との、思い出に残っているエピソードがあれば教えてください。

もう亡くなられたお客様とのエピソードなんですが、もともと彼女はサロンの常連さんだったんです。それが骨折されたのを機に、ずっと自宅へ訪問してカットもシャンプーもさせていただくようになりました。

とても仲の良いお客様で、ガンで寝たきりになられたときもご自宅にマッサージへ行かせていただいたり。亡くなられる1週間前の緊急入院のときも、直接「すぐに病院へ着てほしい」と電話をいただき、その日はマッサージをしながら他愛もない話をしました。

お客様が亡くなられたことは後日に知りました。旦那さんが私を気遣って、言われなかったんですね。

亡くなったご報告をいただいたあと、ご自宅へお線香あげにお邪魔しました。お参りのあとは旦那さんとご飯を食べながら、奥さまの思い出話をしましたね。わたしの妹もお世話になったりと、本当に家族ぐるみで仲良くさせていただいたお客様でした。


美容師という仕事を通して
人の一生に最後まで関わることができる」ということが、私にとってはすごく嬉しかったです。

 

————「人の生涯に最後まで関わることができる」。お客様との信頼関係を何より大事にされている、重本さんだからこそ得られた経験だと思います。そんな重本さんにとって「訪問美容師のやりがい」とは、何だと思いますか?

美容師をしていると、20年前にはお腹にいた子供さんがいつの間にか高校生になっている、なんてことがよくあります。何十年もお付き合いのあるお客様が、歳を重ねたり突然体調を崩してサロンに来られなくなることもある。でも訪問美容をすることで、私に連絡さえしてくれれば自宅までいって施術させていただくことができます。

「生涯の美容師」としてお客様に携われることが、訪問美容師というお仕事の魅力だと思います。

あとは病院で精神疾患のお客様と接するとき、前に訪問した際のことを覚えてくださっているときは嬉しいですね。罵声を発したり意識が朦朧とされていることも多いですが、その中で 私のことを覚えていて世間話をしてくださったり「今度いつ来るん?」って聞かれたときは、嬉しさややりがいを実感します。

まあその倍は大変なことがありますが(笑)だからこそ、得られるやりがいや感動が大きいのが「訪問美容」だと思います。

 

「訪問美容」というサービスを、もっと多くの人に知ってほしい

 

blancheの店内写真2

————「美容師」としての、重本さんのこれからの展望や目標を教えてください。

美容師が介護カットをする」と聞くと、人によっては偽善者のように捉える方がいらっしゃるのも事実です。現にわたしの周囲にも「介護施設のカットをボランティアでなく、お金を取ってやるなんておかしい」という意見の方もいるんですね。

ただ「サロンに足を運べないけれど本当はカットをしてもらいたい」というお客さんは今後も増えていくでしょうし、一方で「訪問美容」というサービスを知らない方はまだまだ沢山いらっしゃるはずです。そういった方々に正しい情報で「訪問美容師」という仕事をもっと知ってほしいし、もっと周知する取り組みが必要だと感じています。

「家に人を上げることに抵抗がある人」もいるでしょうが、私自身はサロンワークと並行してスタッフともうまく連携しながら、これからも訪問美容を盛り上げていきたいです。

子供の頃からの夢であるサロン経営をメインにしながら、訪問美容でも「困っている方、美しくなりたい方のお手伝い」としてスタイリストを続けていきたいと思います。

 

————最後に「訪問美容師を目指すスタイリストさん」に向けて、1言メッセージをお願いします。

「訪問美容」には大変なことが多い反面、やった分だけ嬉しいこと、楽しいこと、お客様から頂く感動が絶対にある仕事です。

これから高齢化社会が進めばさらに需要が高まるだろうし、近い将来に「介護」や「訪問カット」は自分の家族も直面する問題です。

もちろん苦労も多いので安易に「絶対やったほうがいい」とは言えませんが、私としては是非やってみて欲しいお仕事」です。

 

————ありがとうございます。ぜひ今後の訪問美容業界を、サロンオーナーという立場から盛り上げていってください!

▼今回はGOCHOKIスタイリストとして訪問美容師の活動をしつつ、大阪府堺市でサロン「Blanche」のオーナーを務める重本 恵美子(シゲモト エミコ)さんにお話をうかがいました。

これから「訪問美容師」としての活動を考えたいスタイリストさんは、ぜひ参考にしていただければ嬉しいです。

 

Blanche

●住所:大阪府堺市堺区五月町2-27ルシェルコート1F
●営業時間:10:00~19:00  (日曜 10:00~18:00)

●定休日:毎週月曜日・第3火曜日 
●TEL: 072-242-6834
●URL:http://sp.raqmo.com/blanche/

 

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